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秋田簡易裁判所 昭和36年(ろ)68号 判決 1963年2月02日

主文

被告人三名を免訴する。

理由

本件公訴事実の要旨は

被告人土田は秋田県政共闘会議に属する全日本自由労働組合の秋田県支部長、被告人金子は同支部常任執行委員であり、被告人加賀谷は同会議に属する秋田県教職員組合の副委員長の地位にあるものであるが、被告人土田は昭和三六年五月九日、被告人金子は同年四月二〇日、被告人加賀谷は同年四月二四日それぞれ秋田市西根小屋町上丁三番地秋田地方裁判所において小川俊三外四名に対する住居侵入等被告事件に関する証人として、宣誓のうえ、

第一、被告人土田は裁判官杉島広利から

一、秋田県政共闘会議は如何なるものか知つているか。

1  同会議結成の経緯

2  同会議の構成

二、同県政共闘会議は知事に対し「昭和三六年度秋田県予算に関する要求書」なるものを提出したか。

1  同要求書提出の経緯

2  同要求書の内容

3  同要求書について県側と交渉した事情

三、昭和三六年二月一一日知事公舎に行つたか。

四、同年二月一二日知事公舎に行つたか。の各事項につき、尋問を受けた際、正当な理由がないのにその証言を拒んだもの、

第二、被告人金子は裁判官浜秀和から

一、秋田県政共闘会議を知つているか。

1  同会議結成の経緯

2  同会議の構成

3  同会議の役員

二、同県政共闘会議は知事に対し「昭和三六年秋田県予算に関する要求書」なるものを提出したか。

1  同要求書の内容

三、昭和三六年二月一一日知事公舎に行つたか。

四、同年二月一二日知事公舎に行つたか。の各事項につき尋問を受けた際正当な理由がないのにその証言を拒んだもの、

第三、被告人加賀谷は裁判官高木実から

一、1 秋田県政共闘会議結成の経緯

2 同会議の構成

3 同会議の役員

4 同会議の意思決定機関及び意思決定の方法如何

二、同会議は知事に対し「昭和三六年度秋田県予算に関する要求書」なるものを提出したか。

1  同要求書提出の経緯

2  同要求書の内容

3  同要求書について県側と交渉したか

4  右交渉の為県政共闘会議に属する組合員の動員計画を立てたか

三、昭和三六年二月一一日知事公舎に行つたか。

1  その経緯

2  その動員数

四、同年二月一二日知事公舎に行つたか。

1  行くことは二月一一日以前からの予定であつたか

二月一一日以後急拠予定されたものであつたか

2  行くことになつた事情

3  動員数

の各事項につき尋問を受けた際、正当な事由がないのにその証言を拒んだもの、であり、右は刑事訴訟法第一六一条に該当するというのであるが、被告人らに対する準抗告決定謄本及び被告人らの当公判廷における各供述によると、被告人土田は昭和三六年五月一〇日、被告人金子は同年四月二〇日、被告人加賀谷は同月二五日いずれも本件公訴事実と同一事実につき刑事訴訟法第一六〇条によつて各過料五、〇〇〇円に処せられ、当時その裁判が確定したこと明らかである。

しかして、刑事訴訟法第一六〇条及び第一六一条は国家の司法権の公正なる運営を担保するために設けられた手続上の特別制裁規定であり、前者の保障する証言ないし宣誓義務と後者の保障するそれとは、いずれも証人に課した証言ないし宣誓という手続上の作為義務を内容とする訴訟行為であつて、同じく司法権の公正な運営を担保するため、法が実体面から規定した偽証罪の義務規範が証人の真実義務であり、裁判の手続的な裁量によつて左右されぬのと相違し、保障する義務の性質において全く同一である。また、義務違反に対する制裁として、一六〇条は過料を、一六一条は罰金又は拘留をそれぞれ規定しているが、制裁の性質は保障する義務の性質からいつてともに一種の秩序罰に属するものであり、一般の刑事罰の性格を有しないのであつて、一六〇条と一六一条とは立法趣旨及び保護法益の点からいつても、また、義務の内容ないし罪の性質の点からいつても全く同じものである。刑事訴訟法が二個の条文を設けた所以のものは義務の本質的相違によるものでなく、義務違反の程度の差異によるものと理解されねばならぬ。従つて、義務の対象となる行為が同一のときはこれによつて侵害される義務も一個であり、単一の義務違反によつて生ずる秩序侵害もまた単一であつて、単一で同一の義務違反については一個の制裁請求権が与えられれば足り、同一行為に対する法の適用として一六〇条と一六一条とは二者択一の関係にある。義務違反の行為に対しいずれの規定が適用さるべきかは義務違反の程度の差異に応じて決定さるべきことがらである。それ故、義務違反の行為についてすでに刑事訴訟法第一六〇条、一六一条のいずれかによつて制裁が科せられたときは、同一行為についての再度の制裁権行使は否定され、かさねて責任を問うことは、同じ犯行について二度以上罪の有無に関する制裁を受ける危険にさらされないという憲法の根本理念に反する。そして、刑事訴訟法第三三七条第一号にいわゆる確定判決とは普通有罪、無罪の判決を指すが、本件のように、すでにある証言拒否行為につき刑事訴訟法第一六〇条により制裁を受けているのにかさねて同一行為につき同法第一六一条違反の責任を訴追する場合は、法的安定と被告人保護の趣旨から、たとえさきになされた制裁の形式が決定であつても、これを右確定判決から除外すべき合理的理由がない。

よつて、刑事訴訟法第三三七条第一号により被告人等に免訴の言渡をなすべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎川貞造)

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